例えば、資産買収のトランザクションが発生すると、移転する資産・負債は公正価値で評価され引き継がれます。
本稿では、買収価格(=※投下資本)と簿価の投資差額につき、TAB(tax amortization benefit、又は償却による税効果)がとれる場合の株式価値のバリュエーション上の取扱いについて、USGAAPの減損テストを例に、触れていきたいと思います。
※投下資本=株式価値(対価として支払った現金)+有利子負債(引き継いだ負債)
(下図)総資産・買収対価・事業価値・投下資本の関係
かつて公表されたUSGAAPについて解釈・指針を示すEITF 02-13の文書では、減損テストにおけるreporting unitの公正価値評価の前提の考え方について次のように言及しています:
- 市場参加者が、公正価値を算定する際に使用するものと同様の前提を置き、
- feasible(実現可能)なトランザクション・ストラクチャーを想定し、
- related tax implication(税務関連に係る影響額)を踏まえてreporting unitが売り手にとって最も価値が高くなるストラクチャーを想定する。
上記を踏まえて、減損テストの手続きではトランザクションのtaxable vs non-taxable(典型的にはtaxableは資産買収、non-taxableは株式買収)の想定について検討を行います。
両者では税務ポジションが大きく異なってくることもあるため、対象会社の既存のtax attributes(税務上の簿価など)を引き継いだ場合と、引き継がない場合で、何れか定量的に価値が高く出るストラクチャーの分析を行います。
また買収時のトランザクションの形態や、市場参加者が想定する買手のidentificationや税法などを踏まえた定性的な観点からの検討も行います。
米国での事例になりますが、taxableトランザクションを仮定した場合、資産・負債の税務上の簿価は、会計上と同額のステップアップ後の資産・負債(新たに発生する無形資産含む)に洗い替えられます。
そのため、減損テストを行う上でも、買収以前に被買収会社が保有するtax attributes等、例えばのれんやNOLは引き継がない前提で分析を行う一方で、新たに発生する無形資産は、新しい償却スケジュールをベースに、ステップアップによるTAB(米国では税務上15年間の均等償却)の価値をレポーティングユニットの公正価値に加味して価値算定を行います。
逆にnon-taxableの場合は、既存の税務上の簿価等のtax attributesをそのまま引き継ぎ、TABを考慮せずレポーティングユニットの公正価値を算定します。
減損テストにおいて公正価値が既に簿価を上回っている場合、これらの調整を加えても判定には影響はでないと考えられます。
要約すると以下の通りです。
- TABにより公正価値は高くなる(taxableの場合)
- NOLにより公正価値は高くなる(non-taxableの場合)
- 減損の兆候ありの場合、次のステップののれんの公正価値算定では影響が出る
(税務上の簿価が変わることにより、繰延税金資産・負債が変わるため)
減損テストだけでなく、PPAのIRR計算やトランザクション目的の株式価値算定においてもストラクチャーに応じてTABを考慮することがありますが、投資を検討する初期の段階など、情報が不足しているケースではTABを入れずに分析を進めることも考えられます。