継続価値の計算方法

継続価値とは?

継続価値は予測期間(事業計画期間)以降のFCFの現在価値の総和を指し、DCF法における事業価値の構成要素の1つです。DCF法では予測可能な将来期間(事業計画期間)については、設備投資計画も含めた事業計画の損益計画情報を用います。

事業計画期間以降の予想値が存在しない期間については事業計画から将来のFCFを計算することができません。しかし、会社や事業は永久的に継続することが見込まれるため、事業計画期間以降のFCFを価値に考慮することが必要となります。

また、事業計画期間以降の超長期の将来の期間となると誰も能動的に予測ができないため、事業計画期間と同様にFCFを計算することは不可能です。その際に用いられる概念・計算が「継続価値」です。一般的に事業計画は概ね3〜5年程度で作成されることが多く、計画期間以降は継続価値として言わば纏めて計算することになります。

永久成長率法と(EXIT)マルチプル法

継続価値の計算は、実務上一般的に用いられる手法としては、永久成長率法または(EXIT)マルチプル法、清算価値法などさまざまな方法があります。

①永久成長率法

永久成長率法(他にも異なる呼称があると思いますが、本稿では永久成長率法と定義します)は、予測期間最終年度のFCFが一定の成長率で永久的に続くという前提で継続価値を計算する方法です。

  • シンプルで実務上採用されることが多い手法

永久成長率法は、予測期間最終年度のFCFが一定の成長率のもとで永久的に継続成長するという前提に立った計算式であり、計算方法もごくシンプルです。安定的な成長を反映できることから一般的な企業については実務上で採用されることも多く、継続価値の計算としてはよく目にすると思います。

  • 永久成長率法の計算方法

永久成長率法を用いた継続価値の計算方法は以下の通りです。

継続価値=(予測期間の最終年度のFCF)×(1+永久成長率)÷(割引率-永久成長率)

永久成長率法は、FCFと永久成長率、割引率という3つの要素から構成されています。

FCFは、予測期間最終年度の税引後営業利益を基礎とし、減価償却費と同額の設備投資が継続するという前提条件をもって計算されることが一般的です。

永久成長率は、インフレ率やリスクフリーレート、場合によっては人口増加率などが用いられることもあります。

割引率は類似会社のデータなどをベースに設定された加重平均資本コスト(WACC)が用いられることが多いでしょう。

一定率での成長から生じる運転資本増減についてもFCFに考慮する必要があります。

  • 永久成長率法における留意点

特にFCFと永久成長率に留意が必要です。

FCFは、予測期間の最終年度のFCFを基礎に計算されますが、対象会社が成長途上にある場合、予測期間の最終年度のFCFが定常的・恒常的な水準であるか否かを確認する必要があります。

たとえば、予測期間最終年度でも未だ成長が止まっていない、あるいは、設備投資などが積極的に行われている状況であれば、計画最終年度で切ってしまうと継続価値が正確に計算されなくなる(この例だと過小評価)ためです。そのため、FCFを設定する際には業績動向や設備投資の状況に注意が必要です。

永久成長率は、インフレ率やリスクフリーレートなどを参考に設定されることが一般的です。評価対象会社が属する業界の動向などを考慮すべきという議論もあると思いますが、永久的に継続するという観点から高い成長率を設定する際には注意が必要となります(その逆も然りです)。

 

②(EXIT)マルチプル法

マルチプル法は、予測期間最終年度のEBITDAなどに類似会社群から推計された倍率を乗じて継続価値を計算する方法です。

  • マルチプル法が採用されるケース

永久成長率が比較的多くの評価事例で用いられる方法ではあるものの、マルチプル法がより適するケースもあります。ベンチャー企業の評価や買収後の一定時点でのイグジット(EXIT)を見込むファンドが買収対象企業を評価する場合です。

ベンチャー企業は一般的に計画期間後も相応の成長が見込まれることも多く、インフレ率などでの安定成長を反映する永久成長率法が馴染まないことから、マルチプル法を採用することがあります。

また、将来的にイグジットを見込むファンドが買い手となる評価は、3〜5年後の売却を反映すべくイグジットプライスの想定としてマルチプル法を用いることがあります。

  • マルチプル法における計算方法

継続価値の計算方法は以下の通りです。
なお、下の計算式ではEBITDAとしていますが、EBITDA以外は認められないという事ではありません。

継続価値=予測期間最終年度のEBITDA X EBITDA倍率

マルチプル法で計算する場合、EBITDAとEBITDA倍率という2つの要素で構成されています。

EBITDAは、予測期間最終年度の数値を基礎に計算することなりますが、出来ればイグジットのタイミングに財務数値や現価係数も合わせた方が良いでしょう。

EBITDA倍率は、評価対象会社の上場類似会社の倍率を用いることが一般的だと思います。

  • マルチプル法における留意点

EBITDA倍率は慎重に検討する必要があります。

EBITDA倍率は、類似会社から推計された倍率を用いるため、選定された類似会社群に左右されます。したがって、対象会社と類似性が低い上場企業しか選定できない際には適切に評価できない可能性があります。ここでの類似性は事業内容のみではなく、成長性などの要因も考慮できると良いでしょう。

なお、マルチプルは市場株価を用いているので、マイノリティ目線である点には留意する必要があります。

最後に

継続価値は、DCF法で算出される事業価値の大きな割合を占めることが多くあります。
算出方法としては、永久成長率法やマルチプル法などが用いられますが、案件ごとの特徴や目的などに応じて選択適用すべきと考えます。