非流動性ディスカウントとその他のプレミアムやディスカウント

非流動性ディスカウントとは

株式評価において、非流動性ディスカウントが適用されることがあります。非流動性ディスカウントは、株式を換金することが難しい場合に適用されるディスカウントで非上場会社などに適用されます。換金が難しいことなどを考慮して、価値の低下を織り込むものとなります。

非流動性ディスカウントは非上場株式に一律に適用されるものではなく、支配権確保の有無に応じて異なると考えています。

一般的に支配権を確保できている状況では、まとまった株式を取引の対象とできるため、支配権が確保できていない状況よりも流動性が高いと考えることができます。そのため、支配権を確保できていない状況の際に適用を検討することになります。支配権を有さず、少数株主ベースで価値評価をする場合には、流動性の欠如をどのように価値に反映させるのか?といった非常に難易度の高い論点です。

非流動性ディスカウントの実務上の取り扱い

非流動性ディスカウントとして実務上30%程度を用いることが多いと感じていますが、ディスカウント「率」は非常に難しい論点です。

 

実務上用いられる考え方

非流動性ディスカウントは上述の通り、処分や換金が難しい場合に適用され、流動性の欠如に関して率を決めることとなります。しかし、非流動性ディスカウント「率」は、そもそもの観測が不能のため客観的な市場データが存在していないと言われています。

そこで、実務上は税務上の30%~最大50%程度のディスカウント率を評価対象の状況に応じて検討することになります。しかし、どの程度が正解という明確な水準はないので、案件ごとに必要に応じてレンジ設定する方法なども考えられるでしょう。

非流動性ディスカウント適用の例外

上述の通り、支配権を有さない少数株主ベースで価値評価を実施する場合には、非流動性ディスカウントの適用を検討することになりますが、上記の状況でも非流動性ディスカウントを織り込まない場合があります。

 

たとえば、MBOをする際の支配株主が少数株主を追い出す場面が該当します。MBOとは、Management Buyoutで企業の経営陣が株式や一部の事業部門を買取り、経営権を取得することを言い、その場合には少数株主は株式売却により投資回収することを望んでいるわけではないため、非流動性ディスカウントを考慮すべきではないとされています。

コントロールプレミアム・マイノリティディスカウントとは

非流動性ディスカウント以外にも、コントロールプレミアムとマイノリティディスカウントという概念があります。

コントロールプレミアムとは、株式の売買をするにあたって、株式の取得者が支配権を獲得できることに着目して上乗せされるプレミアムのことで、計算された価値が支配権ベースなのか、少数株主ベースなのかによって異なります。マイノリティディスカウントはその逆となります。

 

支配権ベースによる価値と少数株主ベースによる価値

支配権(マジョリティ)ベースによる価値の概念とは、評価対象そのものや評価対象が創出するCFを自由にコントロールできる前提のもとで算出される価値のことになります。インカムアプローチでは評価対象が創出するCFから計算されることとなるため、支配権ベースの価値となります。

コストアプローチも資産や負債の処分などに関して、支配権を有する株主が決定できるため、支配権ベースの価値と考えられています。

一方、支配権を持たない価値である少数株主(マイノリティ)ベースによる価値となり、評価対象はもちろんのこと、評価対象のCFを自由にコントロールできません。マーケットアプローチでは市場で取引される株価をベースに計算されるため、少数株主ベースの価値となります。

コントロールプレミアム、マイノリティディスカウントの実務上の取り扱い

コントロールプレミアムは少数株主ベースで出された価値を支配権ベースの価値に置き換える必要がある時に用いられます。例えば、支配権が移動する取引などで、マーケットアプローチで算出された価値をマジョリティベースに変換する際に検討が必要となります。

なお、コントロールプレミアムについては、TOBなどの事例からプレミアム分析を行い数値化することができます。評価実務上、一般的なプレミアムとして30%程度と言われていると思いますが、本来は業界の特徴に応じて異なると考えます。市場株価に対するTOBプレミアムも一律ではなく、対象企業に応じて大きく異なっているからです。

最後に

非流動性ディスカウントやコントロールプレミアム、マイノリティディスカウントは、株式価値を算出する際には十分な検討が必要な要素です。評価対象会社の状況と取引の態様に応じるものの、本来の意味合いを考えると一律同率の適用は便宜的な扱いです。

非上場株式のマイノリティ取引は相当程度の処分困難性が伴うので、取得の際または売却の際においても支配権の異動を伴う取引上に慎重な検討が必要と考えます。

持合株式の解消が叫ばれる中、各種ディスカウントの適用により評価額も大きく変動することもあり、検討の機会も増えていると実感していますが、非常に悩ましい論点と感じています。