上場類似会社の選定

事業内容だけではなく、財務的な類似性も重要

上場類似会社の選定の際には、さまざまな要素を考慮して選定する必要があります。

基本的に上場会社の中で事業内容が概ね似ており、すなわちビジネスリスクの観点で似ているということが重要な要素となりますが、それ以外にも財務リスクを加味して類似会社を選定する必要があります。

なお、文字通り上場「類似」会社なので、全く同じである必要はありません。
特に非上場の中小~中堅企業の評価の際に、事業内容などが「同じ」会社という定義とすると、「無い」という結果に早々と辿り着きます。「類似」の概念は抽出された社数に応じて狭く考えることもありますが、やや広く捉えることが多いと考えます。


1.事業内容

類似会社を選定するにあたっては、まず対象会社と同じ業界に属している上場会社から選定することになります。

その際には、取り扱っている商品やサービスの類似性などにも着目して対象会社が負っているビジネスリスクが同様かどうかという観点で選定していくことになります。

ビジネスリスクという観点では会社の規模感や事業の成熟度なども考慮する必要があります。
同じ事業であったとしても事業規模、対象会社の成長性・成熟度なども必要に応じて検討要素に含めることもあるでしょう。

2.財務内容

類似会社を選定する際には事業内容の類似性に目線が向きがちですが、財務内容の類似性にも着目すべきです。
すなわち、資本構成や投資リスク、収益性、成長性などを視点に加えることになります。

例えば、設備投資の必要性の有無は資本構成に影響を与えるでしょう。収益性について、利益率などを確認することで類似会社の利益動向など傾向の違いを感じることもあります。

類似性の検討にあたり、資本構成と収益性が相対的に重要性の高い指標と感じており、少なくとも事業内容のみではなく財務内容を考慮しながら類似会社を選定すべきと考えます。

なお、対象会社と上場類似会社で採用している会計基準なども確認しておく必要はあると思います。


事業内容や財務的な内容の全てを満たすような上場類似会社はとても少ないことが容易に想定され、選定できる会社の数は少なくなってしまう可能性もあります。

一概には言い切れませんが、10社前後の上場類似会社が選定できれば良いのではないのでしょうか?
選定会社数が2-3社などあまりにも少数過ぎると、特定の上場類似会社の財務情報や株価情報に依拠・依存してしまうため、極力避けたく思います。

割引率と類似会社比較法で共通

DCF法と類似会社比較法を採用する際には、同じ上場類似会社群を使います。株式価値評価の手法の相違はあれど、異なる上場類似会社を使用することには、誰もが納得できる理由が付かないと思います。

DCF法と類似会社比較法で同じ上場類似会社を用いて価値を算出してみると、両手法で価値が大きく乖離することもあるでしょう。

その際に、DCF法では割引率にβ(ベータ)や資本構成、類似会社比較法においては、事業価値とEBITDAから推計される倍率の適切性の再考を検討する必要があるかもしれません。評価対象会社の事業計画を基礎に両手法とも価値を算出している以上、手法ごとの大きな価値の乖離にはその原因解明が求められます。

理論的には、DCF法と類似会社比較法で同じ上場類似会社を共通利用することで、マーケットや事業構造の一貫性を担保することもできることから価値はある程度近似することでしょう(マジョリティとマイノリティという評価手法固有の要因は一旦除きます)。

仮に、DCF法と類似会社比較法において別々の会社を利用した際に、手法ごとに異なる類似会社を採用した理由を合理的に説明できますか?

最後に

上場類似会社の選定は、価値評価の代表的な手法であるDCF法や類似会社比較法などで必要であり、重要な検討作業の一つです。

最も重要なことは、対象会社の事業内容や事業環境の理解です。この理解度が低いままでは選定結果にミスマッチが生じます。
なお、余談ですが、各種情報ベンダーの業種区分に依拠し過ぎるのも問題と認識しています(情報ベンダーの業種区分に応じた選定の方が説明が容易という最近の実務上の風潮もあるようですが・・)

評価対象会社の理解に基づいて、投資リスクや資本構成、収益性、事業規模など価値評価に関連する複数の観点から選定する必要があります。より類似性が高い類似会社を選定することで、算定する株価の信頼性を高めることができます。

また、価値評価の依頼人(クライアント)などから複数の上場類似会社の提示を受けることもあるでしょう。提示された上場会社をすべて真っ向から否定する必要はありませんが、評価人として専門的な知見から上場類似会社は選定すべきです。
上場類似会社は、第三者的な立場の企業価値評価の専門家が考える「類似性」であり、その概念はやや特異だからです。

ただし、上場類似会社の選定は十人十色との側面は否定できません。
専門家が選定したと言えども、各評価人間での完全一致はなかなか実現しません。結果が異なることも多い代表的な領域の一つですが、各種質疑に対抗できるよう抽出の際の基準や理由(選定理由や除外理由など)は明確に述べられるようにしておく必要があります。